2026年4月3日収録|2026年6月26日公開|1/3ページ
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宮崎晃𠮷
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みやざき・てるよし
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株式会社HAGISO 代表取締役
建築家/一級建築士
一般社団法人日本まちやど協会副理事
東京藝術大学藝術未来研究場特任准教授
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1982年、群馬県生まれ。
2008年、東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。
2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を設計および運営している。《hanare》(2015)で2018年グッドデザイン賞金賞受賞/ファイナリスト選出など。
著書に顧彬彬と共著で『最小文化複合施設——たまたま住んだ一軒のアパートからはじまる、東京・谷中の物語』(真鶴出版、2024)など。
以下、書影を除き特記なきものはすべて三浦の撮影による
なぜスターバックスが看板建築なのか?
スターバックスは日本進出してから今年で30周年であり、全国各地に店舗は増えている。その一因は絶妙の立地戦略にあると私は思う。
そのスターバックスが2026年3月28日に「スターバックス カフェ & アートギャラリー 谷中御殿坂」を開店させた。
谷中は江戸時代から続く古い町である。都心商業地や駅前などに多いスターバックスだが、なぜ谷中だったのか。
そしてその谷中御殿坂店の建築設計は、谷中で多くのリノベーション建築を設計し、かつ店舗の運営なども行ってきた宮崎晃𠮷さんが手がけた。宮崎さんと私は十年以上の付き合いだ。彼が谷中とその周辺で行ってきた活動はすべて取材してきたし、彼の活動に協力したこともある。
そして彼は私の20年以上前の著書『ファスト風土化する日本』(洋泉社、2004)の愛読者でもあった。ファスト風土化とは、日本中の街や風景がまるでファストフードのように均質化してしまうことを批判した私の造語だ。その宮崎さんがスターバックスの建築設計。どんな風に設計するのか。とても興味があった。
この場所に出店を決めたのは約2年前。その時点で宮崎さんにスターバックスからどんな店にしたら良いかという相談があったという。宮崎さんは、谷中の町の特性や歴史を踏まえて、街並みとコミュニティに溶け込む店にして欲しいなど、思うところを述べた。
何度かそういう相談を受けているうちに、スターバックスと一緒に宮崎さんに建築設計してくださいということになった。
しかし宮崎さんは、古い建築を活かしながら、それをリノベーションして町に新しい魅力を付加する仕事をしてきた。スターバックスのようなグローバルな企業のナショナルチェーンの店を設計したことはないし、どちらかと言えば特に谷中のような古い町には、そういうチェーン店はない方が良いと考える立場に近かった。
宮崎さんは自分の設計事務所のスタッフにまず相談した。自分たちはこの仕事を受けるべきか否か。いろいろな意見があったが、どうせ出店することは決まっている。だったら谷中に事務所があり、谷中をよく知り、谷中でずっと仕事をしてきた自分たちが建築を設計したほうがよいという結論になった。
看板建築は微笑ましく可愛らしい
スターバックスには社内に建築内装設計を手掛けるデザインチームがある。アメリカ本社のデザインディレクターも交え何度も彼らと議論した。何十もの提案をして、結果として「看板建築」という商店建築様式を使った店をつくることになった。
看板建築は、建築史家/建築家の藤森照信さんによって名付けられた。関東大震災によって焼け野原となった東京の下町を中心に多く建てられた様式である。木造町家の正面をモルタル・銅板・タイルなどで覆って「看板」を作り、洋風の装飾的なファサードを与えたものが多い。スターバックスの隣の佃煮の中野屋さんはまさに関東大震災のあった1923年創業である。
西洋化を求める時代だったから、どうせ新しく作るなら、建物の中身は和風でも、外見は西洋風にしようとした。だが震災復興期だから、お金はあまりない。職人たちが知恵とアイデアと腕をふるって作りだした様式である。その姿が「微笑ましく可愛らしい。街中に時折残る看板建築を見つけると嬉しくなる。看板建築の数が減っていってしまっているが、貴重な文化資源としてなんとか残ってほしいと願っている」と宮崎さんは言う。
看板建築の看板はそれぞれ店の特徴を表現する趣向を凝らした意匠が楽しいのだが、このスターバックスでは特注のタイルを張った。一枚一枚釉薬を掛け流し、偶然できる形をそのままに焼き付けている。素地の色と釉薬の色/有無の組み合わせで生まれる5パターンのタイルをランダムに張ってある。スターバックスのコーポレートカラーも意識しつつ、町並みに馴染む色を試行錯誤した。隣の中野屋とは看板の高さや窓の高さなどを揃え、オーニングは黒にしてスターバックスのブラックエプロンになぞらえた。
