CULTURESTUDIES

カルチャースタディーズ研究所は
社会デザイン研究者の
三浦 展が主宰する、
消費・文化・都市研究のための
シンクタンクです。

カルチャースタディーズ研究所インタビュー 第1回
——
建築家・宮崎晃𠮷さんに聞く
歴史ある町での開発のあり方

インタビューと文|カルチャースタディーズ研究所 三浦展

2026年4月3日収録|2026年6月26日公開|3/3ページ
スターバックス近くの古い家を見て思わず顔がほころぶ宮崎さん。この家を「かわいい」と言った
スターバックス近くの古い家を見て思わず顔がほころぶ宮崎さん。この家を「かわいい」と言った

今回のスターバックスの設計にあたっては宮崎さんの設計事務所は主に建築と外構の設計を担当したが、インテリアデザインはスターバックスのデザインチームによるものだ。計画の初期から2週間に1度、計何十回も議論を重ね、互いの専門領域にリスペクトをもちつつ遠慮せずアイデアを出し合う関係が作れた。
グローバルブランドであるスターバックスと、谷中というローカルの町。両者の折り合いをどうやってつけるか、葛藤しながら設計を進めた。「短絡的な開発は全国の都市をどこも同じように均質化させ、つまらなくしていく。とはいえ開発を全否定しては、未来に賭ける挑戦もなくなってしまう。過去にも未来にもつながる、射程の長い開発というものを実現できないか」と宮崎さんは考えた。
「谷中に暮らし働く一介のローカル建築家である私に依頼してくれたスターバックスの心意気に応えたいという思いもありました。社会のなかでの建築家の存在意義が問われる機会が増えています。10年以上かけてコツコツと地域との関係性を編み上げてきた活動の延長にこのような期待をかけていただいたチャンスは、全国で活動するローカルアーキテクトにつなげていかなければならない」と宮崎さんは言う。

チェーン店がシビックプライドを育てる可能性
チェーン店がシビックプライドを育てる可能性
店内の黒板にも谷中店の設計コンセプトなどが書かれており、開業時には設計思想の書かれた紙も置かれていた
店内の黒板にも谷中店の設計コンセプトなどが書かれており、開業時には設計思想の書かれた紙も置かれていた

今回私が宮崎さんにインタビューして一番面白かったのは、谷中のスターバックスの開店にあたっての「ギフト」と呼ばれる「儀式」だ。これはスターバックスが新しいお店を開くたびにアルバイトも含めた従業員全員を集めて行うものであり、この店がどういう地域にできた、どういうコンセプトで設計された店かを従業員全員に理解してもらうために行う。
通常は社内の担当デザイナーが従業員に対してプレゼンテーションをするのだが、この谷中御殿坂店では宮崎さんがプレゼンテーションをした。前述した寛永寺以来の歴史、空襲を免れたこと、地形などについて、その歴史と文化を踏まえた建築設計のコンセプトについて40分もかけて宮崎さんが話したという。
おそらく谷中についてまるで社会科の授業のような従業員が話を聞くことは初めてだっただろう。それだけに、スターバックスという会社が、そして宮崎さんがこの店に賭ける気持ちがさぞかし強く感じられただろう。そして従業員は、この谷中の店で働くことに喜びと意義と愛着を感じ取ったに違いない。
町の住民が町に対して感じる喜びと意義と愛着を「シビックプライド」という。シビックプライドが高い住民が多い町は、時代の表層的かつ急激な変化に惑わされず、町の個性を維持していく。スターバックスのようなグローバルチェーンが谷中のような古い歴史のある町に店を出すということによって、その町のシビックプライドがあらためて醸成されるのなら、素晴らしい。
日本全国には歴史ある町が無数にある。そしてスターバックスは日本中で人気がある。日本中の歴史ある町にチェーン店が出ることで歴史が衰退し、全国が均質化するのではなく、逆にチェーン店が地域の建築家を起用してその地域らしい店をつくってくれるのであれば、とても良いことだと私は思った。

谷中の近くの町でも古い住宅のリノベーションが宮崎さんによって進行中
谷中の近くの町でも古い住宅のリノベーションが宮崎さんによって進行中
谷中の言問通りにある十数年前にリノベーションされた喫茶店「カヤバコーヒー」は外国人観光客にもとても人気だ
谷中の言問通りにある十数年前にリノベーションされた喫茶店「カヤバコーヒー」は外国人観光客にもとても人気だ
同じ言問通り沿いのうどん屋
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言問通り沿いも寺が並んでいる
言問通り沿いも寺が並んでいる
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